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“当たり前の幸せ”が誰にでも届く社会に向けて、“生きがい”と“生きやすさ”を一緒に創る

社会的支援

阿部美穂 / 社会福祉法人あいの実 戦略企画室 仙台あばいんプロジェクト担当

 「医療的ケア児者とその家族の“当たり前の幸せ”というものが、いつもの景色に溶け込む、そういう社会を目指していきたい。」そう話すのは、ケアの現場でもプロジェクト担当としても医療的ケア児者とその家族に寄り添ってきた阿部美穂(あべみほ)さんです。

 阿部さんは、医療的ケア児者と家族との関わりを通じて、“当たり前の幸せ”の本質に気づかされたと言います。誰もが福祉の一部に触れて当たり前の幸せをどう実現させていくか聞きました。

当たり前にある小さな幸せこそが大切だと気づく

 社会福祉法人あいの実は、医療的ケア児や神経難病の方とその家族の支援を行い、制度だけでは解決できない問題にチャレンジするために、全く新しい社会福祉法人の姿を東北・仙台から発信しています。あいの実で働き始めた当時は阿部さんも介護福祉士として現場でケアをしていました。

SWCあいの実
SWCあいの実は東北・仙台市の社会福祉法人です。障がい児者、家族、スタッフ。関わる人すべてが尊厳を持ちながら生きがいの再構築ができる道筋を探究し、提案しています。

「入職当時は、通所での生活介護、放課後等デイサービス、児童発達支援のみならず、訪問介護として在宅でのケアにも携わっていました。医療的ケア児者や難病の方のケアに携わることで、言語以外でのコミュニケーション、表情や仕草からその子たちが何を表現しようとしているか、毎日が新鮮で新しい発見と共に、ケアが必要なひとりひとりの幸せがあることにも気づきました。
 例えば、あるお子さんはムース食の一口を咽込むことなく飲み込めて食べられる、これもその子にとっては喜びであり、ケアに関わる支援者にとっても嬉しい瞬間です。このような一つ一つのできるが生きる喜びや幸せに繋がっていることに気づかされました。」

 「一方で、ご家族からお話を聞くと課題が山積していました。“子連れでの外出”や“ご家族自身の社会参加”など挙げればきりがありません。その課題に対してどうしたら解決できるだろうか、と日々モヤモヤしていました。」

 その後、法人内の研修に参加して学んだことを機に、医療的ケア児者とその家族の課題解決に向けた取り組みを進めていくことになります。

医療的ケア児者ファミリーが生きがいを取り戻す“仙台あばいんプロジェクト”

 現場でケアをしていた時にご家族の方からいくつかいただいた言葉について阿部さんは、「ご家族からは、子育てから離れ自分の時間が取れるなら睡眠を取りたい、出産後にこんなお仕事をしたかった、こんなお勉強もしたかった、と様々な声をいただきました。制度のなかではサポートできないこともあり、目の前にいるご家族の課題にどう向き合えばいいのかモヤモヤする時期を過ごしていました。ですが、ケアの現場から一歩引いたところから考ええ、意見を出し合うことができたことで、小さくともご家族が抱えている課題の解決に向けてプロジェクトは価値があって参加する意味があると感じたんです。」

 「2017年に入浴でお困りのご家族からの声をもと立ち上がったプロジェクトが『銭湯プロジェクト』でした。2023年からは『仙台あばいんプロジェクト』という名称となり、さらに『療育キャンプ』と『医ケア児ママの働くカフェ』、2つのプランを実施しています。『あばいん』は仙台の方言で、『いっしょに行こう』です。どのファミリーも取り残されず、生きがいと生きやすさを感じる未来に、私たちといっしょに行きませんか?という想いを込めています。」

ホーム | 仙台あばいんプロジェクト

 「療育キャンプでは、ケアの必要な子どもも皆でBBQを楽しみ、午後はあいの実にあるショートステイを利用していつものケアや休憩を取る時間を設けてリラックスした1日を過ごせる時間にしていました。また、ケアの必要な子どもの“きょうだい”どうしが伸び伸びと遊べる機会をつくり、同時刻に親御さんたちは未来について考える「家族未来会議」を実施しました。この療育キャンプに参加したすべての人が“主役”になれることを目指して取り組んでいます。」

 「医ケア児ママの働くカフェでは、週6日営業するカフェをオープンし、5人の医ケア児ママをパート雇用しています。従来通りの医療的ケア児への介護・送迎サービスにより、ママたちの研修、勤務を無理なく実施していく仕組みを取り入れています。」

 「カフェで働くママが居ることで、ママ自身が社会に参加し新しい繋がりも築けます。働く時間ができ家庭に戻ったときに家族との会話が増えたとママたちは話します。カフェに来店されるお客様には医療的なケア児者とご家族の背景のことを知ってもらう機会にもなり、医療的ケア児者とそのファミリーが笑顔で過ごせる場所が増えると考えています。」

home | カフェ・ドゥ・チルミル
『CAFE de CHILL MILL/カフェ・ドゥ・チルミル』のコンセプトはアウトドアの体験。店名のchill は『ゆったりする』、millは『豆を挽く』を意味します。やる、知る、試す、比べる、寛ぐ、和む、などが体感できます。アウトドアを...

いつもの景色に“当たり前の幸せ”が溶け込む社会へ

 「仙台あばいんプロジェクトに参加してからも自分自身が“フラット”でいることを大切にしています。医療的ケア児者や保護者との関わりのみならず、企業さん、他団体さんとの関わりが増えました。先入観や偏見を持たず、様々な人とつながり、新しい価値観が芽生えたり、そこから新しいアイディアが生まれたりすることもあります。」

 「ですが、医療的ケア児者やその家族のことを良く知らない方もいらっしゃいます。時には偏見の眼差しがあったり、モニター音や吸引音を嫌がったりすることもあります。一部の方かもしれませんが“社会とのズレ”がご家族にとっては大きな負担になっています。この社会とのズレを、立場の違いを越えて理解し合い、医療的ケア児者やその保護者の“当たり前の幸せ”というものが、いつもの景色に溶け込む、そういう社会を目指していきたいと考えています。」

 「そのためにも、このプロジェクトをしっかりと社会全体に発信し続けていきます。療育キャンプや医ケア児ママの働くカフェのみならず、新たな取り組みやイベントを増やしていきたいとも考えています。」

読者へのメッセージ

 「仙台あばいんプロジェクトの本質は、『生きがい』と『生きやすさ』を創り出すプロジェクトです。十分な睡眠時間、ママの仕事、パパの晩酌、家族旅行の思い出を取り戻す。一つ一つの取り組みが、医療的ケア児者ファミリーが生きがいを取り戻すしくみになります。カフェに足を運んでくれたお客様が医療的ケア児者とその家族のことを知ってもらい、その人たちの暮らしが想像され、暖かい眼差しが増えることで、誰もが生きやすい社会になると考えています。

温かい応援メッセージお待ちしております

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