仙台講演会特集専門職社会的支援

社会はひとりひとりが創るもの。障がい児のお母さんが過剰に頑張らなくてもいい社会へ。

社会的支援

美浦幸子 / 昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員

 「障がい児のお母さんが過剰に頑張らなくてもいい。そんな社会に近づくようにこれからも当事者研究を積み重ねていきたいと思います。」そう話すのは美浦幸子(みうらさちこ)さんです。美浦さんは、我が子に障害があって働けない時期を過ごした当事者で、研究者として「お母さんが働けない」ことが個人の問題ではなく、社会の構造的な問題であることを理解してもらいたいと、多様な活動者に広く情報提供しています。そんな美浦さんの取り組みについてお話を聞きました。

“働きたくても働けない”時期があったからこその研究テーマ

 美浦さんは昭和女子大学現代ビジネス研究所の研究員として、「当事者研究」を行っています。大学とは雇用関係になく、個人的な活動として研究を進めています。

 「昭和女子大学現代ビジネス研究所は、社会人が研究員として自己のテーマに合わせてアカデミックな研究をしたり、学生のプロジェクト活動を支援する場です。知人が研究員になったことを知り、研究所について調べ、ここなら私がやりたいことができるかも、と思いました。」

 「研究テーマは“障がい児の母親の就労支援”です。このテーマを選んだ理由は、自分自身が障がいのある子どもを育てる母親であり、働きたくても働けない時期を過ごしてきた経験があるからです。私には持病があって活動に制約があるという事情もありましたが、幼少期に我が子を預ってくれるサービスや資源が不足していたこともあり、非正規雇用でもなかなか働くことが難しいだろうと感じていました。」

 「仕事を再開することができず、長らく専業主婦として日々を過ごしていました。周囲のママ友にも同じような悩みを抱えている方々がいて、この“働きたくても働けない”問題は、母親個人の問題ではなく、社会の構造的な問題ではないかと考えるようになりました。我が子が小学生の高学年あたりから、特性も少し落ち着き、ホッと一息できる自分の時間が持てるようになって、少しずつ“障がい児の母親の就労”について想いを巡らせる時間が増えていきました。」

 当時を振り返る美浦さんは、出産前までは働いていた経験がありながらも、専業主婦の期間が長かったため、研究に対してやりたい、やるべきだとの気持ちがあったものの、あまり自信がなかったといいます。ですが、ママ友からもぜひ頑張ってほしいと後押しを受けて、研究に取り組むことになります。

社会に届いていない声を届け、個人の問題でなく社会全体が取り組む課題解決へ

 「そこから実態調査を積み重ねていき、論考の執筆やマスメディアでの記事掲載の機会もありました。当事者に読んでもらって共感してもらえることがとても嬉しいことですし、何よりも活動を続ける励みになりました。また、研究員2年目には静岡県浜松市の子育て支援団体から講演の機会をいただきました。講演会に参加された方から、自分の中でモヤモヤしていたものが言語化されてスッキリしました。と言ってもらえたことで、やってよかったなと思えるようになりました。」

障害児の親は働けるのか?~必要なつながりと支援を考える~
9月7日(土)、父親&母親のための子育て教室「障害児の親は働けるのか?~必要なつながりと支援を考える~」を開催しました。

 「研究に基づくマスメディアでの記事掲載や講演を通じて、“障がい児の母親の就労”が社会課題であるとの認識が生まれ、少しずつ広がってきたような気がします。私自身が働けない時期を過ごした時代は、社会でこの問題が取り上げられることはほとんどなく、困っているお母さんたちが沢山いるのに取り残されている、そんな状態だったように思います。少しずつですが、お母さんたちの声が社会に発信され、実態が認識されることによって支援の動きや社会制度が変わっていく道筋が生まれつつあると思いますし、自分のやってきた活動は間違いじゃなかったと思えています。」

女性活躍、両立支援からこぼれ落ちる母親たち ~就労に制約・困難、厳しい経済状況~
近年、日本では女性は最大の潜在力であるとして、女性活躍、女性の就業率の向上が図られている。政府は仕事と子育ての両立支援策として、保育所、放課後児童クラブ(学童保育)の待機児童解消に向けて取り組んでおり、厚生労働省「2019年 国民生活基礎調...

障がい児の母親の就労支援の先に見る“障がい者の暮らし”と“ケアラー支援”の未来

  「障がい児の母親の就労支援で言えば、大きく二つの要素があると思います。一つは、現在子育て、ケアをしながら働いている方が、将来に渡って働き続けるための就労継続支援。もう一つは、働きたくても働けない状態にある方が、もう一度働けるようになることまで考慮した就労支援です。この二つを意識しながら、社会制度の改正、企業の取り組みに反映させていく必要があると考えています。

 今年あった育児介護休業法の改正は、現在働いている方、これから障がい児を授かるかもしれない方にとって大きな社会制度の改正だと思います。さらに、就労している方が働きやすく、すでに離職して、働きたくても働けない方が再び働けるようになるための支援の両方を考えると、企業努力だけでなく、公的な支援を拡充していくことが必要だと思います。子どもの居場所や送迎などの公的支援の拡充によって、子どもたちに関わってくださる方が増えることは、障害への理解を広め、共生社会の推進にもつながるのではないでしょうか。子どもの障がいの有無にかかわらず、働くことを選択できる社会――働くにせよ、専業主婦で子育て、ケアを担うにせよ、障がい児のお母さんが過剰に頑張らなくても生きていける社会になっていってほしいと思います」。

障害児育てながら仕事:中日新聞Web
6歳の息子は発達障害があります。私は時短勤務をしていますが、通院や役所の手続きなどでよく休みます。障害児を育てながら働いている方は、ど...

 「今後は、障害のある子どもが成人を迎えた後のことを視野に入れていきたいと思っています。子どもが成人すると一般的には子育てが一段落するものですが、障がい者の場合、使えるサービスが変わり、余暇活動が不足して、親がケアする時間が増えることがあります。子どもが親元を離れて自立して暮らす場も不足していますし、障害基礎年金を受給できたとしても経済的な不安をもって暮らしている方々が少なくないと思います。親亡き後の不安もあります。障がい児の母親への就労支援の先にある問題として、障がい者への暮らしの支援、ケアを続ける親への支援(ケアラー支援)について、当事者研究として向き合っていきたいと思っています。」

読者へのメッセージ

 「制度を変えようと思ってもなかなか変わらないこともあって、諦めてしまうことも多いかもしれませんが、社会は誰かに作ってもらうものではなく、ひとりひとりが創るものだと私は信じています。共生社会に向けて障がい児者を包摂していくことはもちろんですが、ケアラーである家族の問題も考えていただけたらと思います。」

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