地域密着成人支援経営者・代表者

誰もが誇りを持って“働ける”。そのために“やりたい”を共に伴走していく。

地域密着

木村直隆 / 一般社団法人石巻グリーフサポート 代表理事 兼 パーラー山と田んぼ サービス管理責任者

 「パーラー山と田んぼは、お客さんも、スタッフも、みんなで利用者さんの“やりたい”を叶えていく場所なんです。」木村さんのその暖かな言葉には、これまで数えきれない程の悲しみを受け止めてきたからこそだと感じさせられるのです。

 宮城県石巻市の前谷地でパーラー山と田んぼを立ち上げた木村直隆(きむら なおたか)さんは、生まれ育った故郷でホッと一息つけるベーカリーカフェをお客さんと共に地域に根づかせています。

私にも必要だった“心のケア”。誰もが心を癒せる仕事をつくる。

 木村さんは当初、相談できる場所をつくり、カウンセリングや対話を通じて心のケアができる、そんな居場所をつくろうと思っていたそうです。

 「東日本大震災当時、仙台市内で結婚式などの映像をつくる仕事をしていました。震災後に映像の仕事をこなしつつ、震災現場を訪れ、津波で大切な家族を亡くした人の話を聞いたり、汚れてしまった家族との思い出の写真を復旧させるボランティア活動をしていました。その方の命の大切さと向き合い続けていくうちに、夜も眠れなくなったり、仕事にいけなくなる日々もありました。」

 「これはダメだなと思って、偶然みつけた“仙台グリーフケア研究会”に参加し、話を聞いてもらいました。話を聞いてもらって、とても安心できたと同時に、相談する人の気持ちに近づけたんです。このことをきっかけに、心のケア、グリーフケアを学びはじめました。その後も、知識だけでなく現場目線でも心のケアについて学びたいと思い、相談支援に携わるようになったんです。」

 「相談員の仕事をするようになり、精神的なケアを必要とする方の社会復帰や就労の相談を担当する事もありました。一緒に就労支援事業所へ見学にも行きましたが、なかなかその人に合うお仕事が見つからず、仕事にチャレンジしても長続きしない日々だったんです。とはいえ、その人のやりたい仕事ですぐに一般就労というのはハードルが高かったです。」

 「非力な女性や障がいを持っている方でも“やってみたい仕事”や“憧れる仕事”を叶えたいと思い、パン作り、パティシエ、カフェの店員ができる就労継続支援B型のベーカリカフェ、パーラー山と田んぼを立ち上げました。」

誰もが“やりたい”は叶えられる。
お客さんと共に“誇り”を育てる場所がパーラー山と田んぼ。

 「オープンしたてのお店はすごく忙しかったですし、スタッフもお客さんの対応に追われていました。レジに利用者さんが入ろうものなら、その忙しさに怯えてしまうほどでした。時にはお待たせしたお客さんに怒られてしまう事もありました。そんな姿を見て“こんなお店を目指していない…”と思ったんです。パーラー山と田んぼは、お客さんもスタッフもみんなで利用者さんの“やりたい”を叶えていく場所なんです。」

 会計待ちでイライラしたお客さまにはお声をかけ続けて、レジにいる利用者さんには目線が行かないようにしたり、それでも待ちきれなさそうなお客さんには「お会計は次回で大丈夫です」と伝えてお代は頂戴せずに商品をお持ち帰りいただいた時もありました。そういうことをしているうちにお客さんも時間に“ゆとり”をもってもらえるようになり、利用者さんもレジに立てるようになったんです。パン作りも同じです。スタッフがたくさんの商品を出そうと思い、忙しくパンを焼き続けますが、そのスピードに利用者さんがついていけなければ利用者さんはパンを焼けない状態でした。そうではなく、作る量は半分でいいから一緒に焼けるように、そう声を掛け続けていました。」

 「だからこそパーラー山と田んぼは、いい意味で“利用者さん任せ”であって、職員はそこに一緒にいさせてもらうスタンスなんです。利用者さんの“やりたい”を叶えていく、そう考えたときに、仕事の効率化は二の次にしたんです。例えば、10個パンが作れるはずなのに、慣れていない利用者さんが携わった時には3個しかつくれない。それでいいんです。その3個を心を込めて一緒に作る。だんだんに慣れてくれば4個、5個と作れるようになります。利用者さんも初めてパンを作るのは緊張します。その緊張感をみんなが支えるからこそチャレンジしてみようという気持ちが育つのだと思います。そして、利用者さんが胸を張って「山と田んぼでパン作りしています、ケーキを作っています」と誇りを持って言ってもらえるようなお店に育てていきたいと思っています。」

福祉や心のケアとは無縁だった私でも“誰かの人生に寄り添える”。
そんな居場所がつくれるかもしれない。

 「震災前まで障がい者と働くこと、心のケアとは無縁だった私ですが、グリーフケアと出会い、パーラー山と田んぼを立ち上げたことで、障がい者の人が働くことに興味を持ってもらったり、グリーフケアについて知ってもらうことができています。大切な家族を亡くして何年経っても悲しいと感じる事は自然なことです。決して病気ではありません。対話を続け、その想いを話せることは勇気のあることだと思います、ともお話しています。」

 「大切な方と死別する喪失体験はその苦しさや悲しみが深いからこそをだれにも打ち明けられず、胸の中に閉じ込めてしまう事も多くあります。誰かに話すという事は簡単な事ではないと思いますが話す事で気持ちが軽くなる事もあります。ひとりで悩まずに安心して話せる場がある事を知って欲しいと思っています。」

 そんな木村さんが描くこれからの目標として“こどもホスピス”を作りたいと思っているそうです。「幼くして難治性の病に苦しむ子ども、その家族を支えるこどもホスピスではその子たちの夢を叶えていき、“その子の人生を生き切れるように寄り添い支える”そんな活動が出来ればと思っています。最後を看取るだけでなく、残された家族の分まで何かができればと思っています。そんな場所を石巻に創りたい、それが夢です。」

読者へのメッセージ

 「サービス提供者は、“利用者さんの毎日の暮らし”を意識するお仕事なんです。利用者さんは誰もが働きたいと思って来ているわけはなく、“なんだか朝起きるの大変だな”、“仕事に行くのどうしようかな”、と思って来る方もいます。だからこそ、サービス提供者として“今日も来てよかったな”、“また明日頑張ろう”と思ってもらえるように関係性を築いたり、支援を続ける、やりがいのあるお仕事です」

 「また、就労支援サービスを受けながら働こうかなと考えている方には、“やりたい”を叶えるためにぜひ動き始めてください。きっと何かが変わるはずです。応援しています。」

パーラー山と田んぼ ベーカリーカフェ
https://www.facebook.com/yamatotambo/

温かい応援メッセージお待ちしております

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