児童・学童支援地域密着経営者・代表者

“障害”という言葉がなくなればいい。“違い”を尊重し合える世界観を目指して。

児童・学童支援

菅谷拓斗 / NPO法人UBUNTU 副理事長

 「UBUNTU(ウブントゥ)で大事にしていることは、人と人との関わりの中で価値観を見つめ直したり、新しい体験を通じて得た経験から自身の価値観を互いに掘り起こすことです。」と、話すのは菅谷拓斗(すがやたくと)さんです。

 菅谷さんは、佐々木綾子さんと共にUBUNTUを設立した発起人として、「たとえ重い障害があると言われていても、挑戦や失敗をたくさん経験し、様々な出会いや関わりを通じていろんな感情を持ちながら、自分の人生を思いっきり生きてほしい。」とUBUNTUに込められた想いを教えてくれました。

理想を現実に。誰もが“ライフデザイナー”になれることを目指して。

 佐々木綾子さんと共にUBUNTUを設立したことについて菅谷さんは、「佐々木とは大学の同級生で手話サークルを通じて繋がりました。大学2年生の頃には手話サークルのイベントの企画・実行や運営スタッフとして共に活動をする機会もありましたが、社会人になってからはお互い違う地域、異なるフィールドで仕事をしていました。社会人になってからも会えば“自分たちの理想”や“理想とのギャップ”について話しては、また目の前で向き合うべきことにそれぞれ注力しようというやりとりを続けていました。とはいえ、そもそも大学時代は、佐々木が福祉の仕事をするとも思っていませんでしたし、今、同じ組織で働いているのも未だに不思議な感覚です。」

 「ある時、お互いがそれぞれに仙台を拠点に活動しようというきっかけがあり、佐々木が先に仙台で医療的ケアや重症心身障害の子どもたちと関わる仕事をしていることを知らされてその会社で一緒に働くことになったんです。しかし、そこで働くうちに会社の方針と“自分たちの理想”とのズレに直面しながら組織変革を行い、一定の手応えや子どもたちの変化がありつつも、何度も振り出しに戻るということを繰り返しました。こうしている間にも、目の前の子どもたちの人生や命は待ってくれない、自分たちがやりたい世界観は自分たちで創るしかない、そう思って結成したのがUBUNTUなんです。」

 「UBUNTUは重い障害があるといわれていても本人のやりたいことや日常を通じた体験ができることを行う場所です。外食、お祭りへの参加、マルシェの出店、海や山などのアクティビティ、県外への旅行といった体験を通じて、多様な感情が生まれたり、人との関わりの中で価値観が培われていくことを自然にやっていこうとしています。最初は、あの人たちで大丈夫かなと思っている人もいた(もしかしたら今も)かもしれませんが、時間をかけながら信頼を築いていくことが大事だと思っています。」

UBUNTUは“第二の家族”という存在

 「UBUNTUは“こんな専門職がいます”とか“医療的ケアのことをやってます”とか、でかでかと大きな看板を立てるのではなく、子ども達との関わりの中でその子の可能性を広げたり、小さな出来事を見逃さず、自然体であるがままの個性を表現する機会やきっかけ、仕組みをつくることにこだわっています。そうすると、子ども達のイキイキした姿や成長、変化を見ることもできますし、いつもは見せない表情や表現が次々出てくるんです。」

 「“ご利用者とスタッフ”というような形だけの繋がりではなく、第二の家族という存在になりつつあると思っています。さまざまな垣根を越えて、家族ぐるみでの会食や趣味などを楽しむ機会もありますし、子どもありきの関係性ではないところに深く繋がれていることにUBUNTUらしさがあります。」

多様な人との出会いが価値観を変え、生き方を変える

 「設立して5年ということもあり、人との繋がりは徐々に増えてきて、児童館での遊び、地域の小学校での福祉学習、手輪プロジェクト、大学の手話サークルの運営サポート、高校や大学の授業でのゲストスピーチなど、それぞれでいろんな関わりが出来ています。人との繋がりから、今まで重い障害があるといわれている子どもたちに出会ったことのない人に対しても、スキーができること、山や海に行くこともできるなどあたりまえのことがあたりまえにできるという驚きや印象を変えることも一つのUBUNTUができたことだと思っています。また、そういった活動を積み重ねていくことで大学生や地域の普通の主婦の方、本業を持ちつつ活動する社会人ボランティア、さらには高校生のボランティアなど、UBUNTUの活動に参画してくださっている人がどんどん増えて、“化学反応”が日々起きています」

 「手輪プロジェクトも私たちの活動や繋がりに欠かせない一つとなっています。手輪プロジェクトは、もちろん手話を学んだり、実際に使ってみてコミュニケーションを取ることもしますが、手話を通してコミュニケーションとは何か?障害とは何か?といったことを考えていただく機会でもあり、新たな出会いや繋がりが生まれ、連鎖していく場にもなっています。」

 「現在までに福祉という仕事を通じて、色んなことを学んだり、さまざまな方々と時間を共に過ごす中で自分自身、とても人生が豊かになっている実感があります。また、福祉という世界はとても奥深く、多様性に溢れていると感じています。例えば、私たちにはない考え方、感じ方を持った人がいたり、動かせる身体の部位が違ったり、それこそ音声言語だけでコミュニケーションをしないなどコミュニケーションの前提が異なることもあります。だからこそ、固定概念や価値観に変化を加えながら、その地域に住む人たちみんながどんな地域だと住みやすい暮らしになるのか、さまざまな視点を取り入れながら常に考える必要があると思っています。」  

 「障害のあると言われる人ほどイメージするのが苦手な方が多いです。だからこそ、リアルな体験をより沢山する必要があると思います。よく体験格差によって選べないということが起きていますが、それと同じで経験したことがないから選べない、他人が決めたレールに従うしかないみたいなのが起きないようにしなければいけない。中学生や高校生の子どもたちにとっては、これから“働く”や“住む”ということを決めていくライフステージになってきます。その可能性を狭めないためにも経験から見つけた感情、価値観、個性を掘り起こしていきたいと思います。」

読者へのメッセージ

 「よく福祉の仕事をしていると“大変だね”とか“頑張ってるね”と声を掛けられることがありますが、そう言われると自分にとってはやや違和感を感じます。私は福祉という仕事ほど“おもしろい”ものはないと思っていますし、まさに“多様性”に溢れてパラダイムシフトの連続の中にいると思っています。身近にできる世界旅行のような感覚です。」

 「障害があるといわれている人と関わるのは難しいと思われがちですが、むしろ自分と違うなと思う人々に出会ってみて、深く関わってほしいと思っています。個人的には、福祉は異文化交流だと思っています。全然違う文化を持つ人たちと同じ空気を吸って、同じ活動を通じて“UBUNTU”を感じてもらえたらと思っています。」

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